「それじゃあ、ばっちゃんのとこに顔出して来るね」

「はい。おばあさまによろしく」

「本当は僕なんかより、が行った方がいいんだろうけどなぁ〜」

「私じゃ和人さんの代わりは務まりませんよ」

「僕だって、君の代わりは出来ないよ」

靴を履き終えた和人さんに大切な書類がつまったカバンを手渡す。

「今日もお仕事頑張って下さいね」

「うん。もあんまり無理しないようにね」

「はい」

にっこり微笑むと、和人さんも嬉しそうに笑ってくれる。

「それじゃあ、行って来ます」

ちゅっ…と軽く触れ合う唇。
今では当たり前のように行っているキスも、そこへ至るまでには色々あったことを思い出し、思わず笑みを零す。

「…んっ…ど、どうしたの?」

「え?」

「急に、笑い出して…」

「ごめんなさい、驚かせて。ちょっと…初めてキスした時を思い出して…」

「な、なんで突然思いだすんだよ〜」

「すみません」

恥ずかしそうに鼻をかきながら、あの時を思いだすかのように和人さんの視線が彷徨う。

「ホント、あの時は一生懸命だったんだよ」

「はい…聞きました」

「うぅ〜…まさかあんな大事な場面で、癖が出るなんてさ」

「でも、そのおかげで…踏み出せた一歩ですから」



そう、和人さんとのファーストキス…先に動いたのは、実は私からだった。



「ほんっとに心臓止まるかと思ったんだよ?あの時は」

「…私だってそうですよ」

「そうは見えなかったけど?」

結婚してから見せてくれるようになった、少しイタズラっぽい…どこか意地悪な顔で覗きこまれて思わず視線をそらす。

「…初めて、だったんですから、ドキドキしないわけありません」

「うん、そうだよね。でも…ドキドキしてくれて、嬉しかった」

「え?」

「だってそうでしょう?それだけ…が僕の事、好きだって思ってくれていたってことなんだから」

「…はい」

誰にも心揺らさず動かさず…鼓動が止まるまでの時を、ひとりで過ごすのだと思っていた。
でも、和人さんに出会って、少しずつ少しずつ…壊れかけた心臓が動き出して、和人さんと時を刻みたいと思うようになった。

そして今…壊れかけた心臓は、すっかり元気を取り戻し、大好きな旦那様を見つめるたびに、こうして鼓動を刻んでいる。

「あのね、本当はあの時…こうしたかったんだ」

持っていた荷物を床に置き、両手を頬に添えた和人さんの視線が真っ直ぐこちらを見る。

「ね…キス、しよっか…」

「……」

「愛してる…

「…はい」



そしてそっと重ねられた唇は、あの時のように触れるだけのキスじゃない。
想いが全て込められた…熱い、そして長い…キスだった。



唇が離れ、ゆっくり目を開ける。

「…って、あの時僕がしてたら…はどんな反応してくれてたかな」

「きっと…心臓が止まっちゃってるかもしれません。手術前でしたし…」

「あははは、嬉しいけどヤバいね。あんまり興奮させちゃダメだーってDrと教授に釘さされてたのに」

「でも…」

「ん?」

何度か躊躇いながらも、和人さんのスーツの袖を掴んで…小さな声で、素直な気持ちを伝える。

「でも、今は…もう、大丈夫ですから…」

「…うん、そう…だよね」

どちらともなく目を閉じて、もう一度…そっと唇を合わせる。




あの日の想いを、もう一度伝えるように…
あの日の気持ちを、もう一度…キスで伝えるように





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ぐはっっ…あ、甘っ……orz
砂糖量産が得意な自分ですが…なんでしょう、この妙な甘さ(笑)
えー…某病院から新田先生が消えてしまって、切ない日々を送っているのでそれならばいっそってことで…嫁になってみた(どきっぱり)
新田先生がいるのなら、ばっちゃんのとこでもいいじゃないか!
というか、寧ろドラマCD買わないとダメか?ダメなのか!?誰か貸してくださいっ!(おい)
ヒロインは一応元は心臓病関係の患者さんってことで。
しかも謎の心臓病ってことで。S.S.D.S.ならなんでもありだ!
そんな訳で…新婚さん風味の、朝の甘い風景でした。